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【  2017年05月  】 

咲かない桜の桜守 29

第五章

2017.05.01 (Mon)

 確かに松田が言うように、昔から桜は霊力を持ち、人の言葉を解すると言われてきた。だから羽太は平家桜の前では二度と、不安を口にはしなかった。だが今、羽太が見上げる平家桜は去年のそれとは全く違う。      四方に伸びた桜の支幹は苔ごと茶褐色に変色し、瑞々しさが失われてしまっている。今日まで電話やメールで連絡を取り合ってきた松田の見解では、根が吸い上げた水分が支幹まで充分に行き渡らず、乾燥してしまってい...全文を読む

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咲かない桜の桜守 30

第五章

2017.05.02 (Tue)

 全国の古木に除草剤を注入し、倒木させた材木商の犯人は、平家桜の関与も自供して逮捕され、既に起訴もされた。羽太は怒りの矛先が松田に向かわないよう釘をさした。 だが、観光客が引けた頃合いに祭りの後片付けを始めたが、小泉は険しい顔を崩さない。二人で公園内の雪洞を外したりしていても、普段は冗舌な彼がむっつり黙り込んでいる。羽太は気まづい空気を堪えつつ簡易テントを解体し、小泉と二人、それを公園事務所へ運んで...全文を読む

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咲かない桜の桜守 31

第五章

2017.05.03 (Wed)

 ただ、小泉が松田に言いたい事は大方の予想がつく。けれど、松田もまた平家桜のこれからについて、村役場の職員や村民と、話し合いと言っている。平家桜の今後に関して何か心づもりがあるのなら、持ち主の自分に真っ先に相談があっていいはずなのに、何も聞いていなかった。羽太は疼くような不安に駆られつつ、松田に程なく追いついた。そして松田と肩を並べながら二人して口を噤み、濃霧に覆われた深い樹海の入り口のような事務所...全文を読む

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咲かない桜の桜守 32

第五章

2017.05.04 (Thu)

 「これが治療と言えるかどうかは、わかりません。ですが、主幹の主根が枯れる前に、主幹以外は支幹を可能な限り取り除き、主根にかかるる負担を少しでも軽減するのがベストです。桜は感染症に弱い樹ですから、切断口から病気にかからないよう、万全の措置は私が取らせて頂きます。また、冬には毎年根付ぎを続ければ、必ず平家桜は再生します」     つまり、八百年もの歳月を経て平家桜が創造した絢爛豪華な枝振りを、生命力の...全文を読む

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咲かない桜の桜守 33

第五章

2017.05.05 (Fri)

 松田のスーツの襟を掴み、揺さぶりたい衝動に猛烈に襲われた。そして、唐突に羽太は気がついた。どうして松田がその事を自分に言わずにいたのかも。言えるわけがないからだ。弱った桜に日本の酷暑を越えさせるには、支幹をほとんど伐採し、主幹と根だけにするしかない。樹齢八百年の古木の桜を丸裸にするなんて、納得できるわけがない。受け入れられるわけがない。だから松田は言わなかった。代々桜を守ってきた三浦家の当主だから...全文を読む

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咲かない桜の桜守 34

第五章

2017.05.06 (Sat)

 「平家桜は観光資源と割り切るのなら、これ以上、桜の姿を損なうべきではないでしょう。ですが、桜は観光資源であると同時に命です。生きています。今ここで大鉈をふるえば、私達の次世代の春を平家桜はかつての姿で、彩ってくれるようになる。だから私は治療を諦めきれません。放置すれば枯死すると、わかっているのに見捨てる事はできません」  切々と哀訴する松田の横顔は樹木医としての信念と、人としての生きざまを吐露して...全文を読む

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咲かない桜の桜守 35

第五章

2017.05.07 (Sun)

 「僕も地元の人間です。平家桜の美観は村中の死活問題だという事もわかります。こんなになるまで異変を放置した当主としての責任も感じています。だけど、僕は平家桜の所有者です。所有者として、あの桜を見殺しにはできません」会議室に充満した気詰まりな沈黙を、羽太がおもむろに切り裂いた。今度は松田が隣で息を呑み、驚いたように身動いた。だが、羽太はまっすぐに顔を上げ、松田の方を見なかった。これは自分で下した決断だ...全文を読む

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咲かない桜の桜守 36

第六章

2017.05.08 (Mon)

 「疲れた……」 想定外の修羅場だった事もあり、羽太は燃え尽きたようにパイプ椅子に腰をかけた。今更ながら汗がどっと吹き出して、体が小刻みに震え出す。思わず大きく息を吸い、吐きながら羽太は項垂れた。すると、肩にそっと手を置かれ、反射的に顔を向ける。「松田さん……」「何にも言わずに急にこんな話をしてすまなかった。だけど、三浦が助け舟、出してくれるなんて思わなかった」  艶めいた目で撫でるように見つめられ、胸...全文を読む

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咲かない桜の桜守 37

第六章

2017.05.09 (Tue)

 「まあ、咲いてねえんだから、しょうがねえよ」 松田は肩をすくめて苦笑した。互いに何か話すたび、微かに白い互いの息が森閑とした夜気に紛れる。山岳地のこの辺りは、桜が満開になる頃でも夜は寒い。手袋がなければ指がかじかんでくる程だ。春の宵闇。静寂の杜。         霞がかった白銀の月。   黒々とそびえる山脈を背景にして、ひっそりと佇む平家桜は、老いさらばえた花魁のように侘しげだ。あちこち枝を落とさ...全文を読む

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咲かない桜の桜守 38

第六章

2017.05.10 (Wed)

 「桜祭りが終わったら、できるだけ早く謝罪したかった。これからの処置の方向性も早く決めないと手遅れになっるからな。今日は小泉さんに、こういう席を設けて貰えて助かった」ムキになる羽太を落ち着かせようとするように、軽く頭をはたかれた。だから、今日に限って能紺のスーツに白のシャツ、無地のネクタイという、あらたまったビジネス仕様の服装で来たのかと、羽太は、やっと気がついた。そっと見上げた松田の目は、胸のつか...全文を読む

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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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