更新履歴

さわりを読む▼をクリックすると更新された内容の冒頭部分がご覧になれますので、久しぶりのご訪問の方はこちらで未読・既読のご確認ができます

日付別の更新チェックはカレンダーの日付をクリック ▼

【  2017年02月  】 

死か降伏か 32

第二章 綾なす姦計

2017.02.02 (Thu)

 茶屋の女中に案内されながら千尋は急こう配の階段を上がり、逸る気持ちを抑えきれず、廊下の途中で小走りに女中を追い越した。しかも、千尋が向かう奥の間からは、何やら懐かしいような香ばしい匂いが中廊下にまで漂っている。「才谷(さいたに)さん!」奥の間の襖を開けると同時に、はしゃいだ声が思わず出た。「おう。まっこと久しぶりじゃのう」中にいた総髪の男が、片手を上げて千尋に応える。男は鴨川に面した出窓の縁に尻を...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 33

第二章 綾なす姦計

2017.02.03 (Fri)

 「出せますよ」 千尋はコーヒーミルのハンドルを持つ手を止めもせず、平然として言い切った。それこそ明日にでも全額小判で用意する。そう確約したも同然の声音であり、眼差しで才谷を圧倒した。カマをかけたつもりだった才谷の方が牽制され、二の句が継げずに絶句する。その才谷が注視する中、千尋は嬉々として急須に濾紙(ろし)を敷き、その上にミルで砕いた粉を盛った。ただでさえ蒸す亰の夏座敷に才谷が持ちこんだ火鉢では炭...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 34

第二章 綾なす姦計

2017.02.04 (Sat)

 「花村さん」 翌朝、花村が蔦屋(つたや)の井戸端で歯を磨いていると、か細い声で尋ねられた。「千尋さんが通う人って、どんな人なんですか?」「えっ?」 ぎょっとして振り向いた先では久藤がしょんぼりと肩を落とし今にも泣き出しそうに下唇を噛んでいる。起きぬけなのか目が赤く、珍しく濃いクマも浮いていた。「女の話ですか? 千尋さんの?」花村は慌てて口を濯ぎ終え、濡れた口元に手拭をあてた。 「……さあ。私は存じ上...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 35

第二章 綾なす姦計

2017.02.05 (Sun)

 「何どすのん? それ。お汁粉みたい」 店の女中や下男に囲まれ、千尋がカマドの前で柄杓を持ち、鍋の中身を混ぜている。千尋に妹のように懐いている童の女中が千尋に肩を抱かれながら、もの珍しげに鍋を覗きこんでいた。童女はしきりに中身の匂いを嗅ぎ、千尋を見上げて愛らしく訊ねる。「お豆さんどすか? 旦那はん」「すごいな。よくわかったね」「でも、実いが入ってはらしませんし。なんや、えろう焦げ臭い」「すごいな。当...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 36

第二章 綾なす姦計

2017.02.06 (Mon)

 「どうかしましたか?」「壬生浪士組の沖田総司が来ています」「沖田がですか?」険しい顔で囁いた花村の案内で廊下を進んで行くと、店の表の土間で中肉中背の青年の人影が折り目正しく一礼した。しかも、彼の傍らには先に佑輔が仁王立ちして千尋と花村を待っている。「朝早くに申し訳ございません」 早朝から濁りのない沖田の澄んだ声が土間に響き渡った。千尋は佑輔を顎でしゃくって脇へ寄せ、接客用の畳の間まで駆けて行き、着...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 37

第二章 綾なす姦計

2017.02.07 (Tue)

 赤い絨毯(じゅうたん)敷きの座敷に、テーブルと椅子が配された部屋に通された沖田は、淡い花模様の洋磁器で女中に茶褐色の茶を供された。「これは何というお茶ですか? 良い香りですね。少し渋みがあって、色もきれいだ」   沖田は早速茶器を持ち上げ、一口飲むなり、好奇心の塊のような清らかな目を千尋に向けた。そんな一挙手一投足を、千尋は注意深く眺めつつ、沖田はあえて、出されたものを躊躇なく口にして見せたのだろ...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 38

第二章 綾なす姦計

2017.02.08 (Wed)

 「下田港開港以来、開国に傾く幕府に反して、朝廷では攘夷(じょうい)論、つまり幕府を退け、天皇の権威を復権し、欧米諸国を撃退しようという鎖国思想が主流になっています。朝廷や公家の後ろ盾のほとんどが攘夷論者の長州藩であることも事実です。壬生浪士組を召し上げて下さった会津藩は、幕府より京都守護職を仰せつかっておりますが、鎖国思想に傾く朝廷や、公家の掌握には未だ至っておりません。ですから、長州藩の策略にも...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 39

第二章 綾なす姦計

2017.02.09 (Thu)

 「中川宮親王(なかがわのみやしんのう)は、今上帝の妹宮であらせられる和宮内親王(かずのみやちかこないしんのう)殿下の将軍家ご降嫁という、公武合体(こうぶがったい)政策にも力を尽くしていらっしゃった。鎖国はお望みでも、倒幕は本意ではない今上帝の複雑な御心情にも理解を示され、今上帝からの信任も大変お篤い御方dす。宮の御言葉であれば、今上帝も御心を動かされ、長州藩の策略を退けて下さるかもしれません。そし...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 40

第二章 綾なす姦計

2017.02.10 (Fri)

 「あなたの話だと、私は会津藩に恩を売れば、壬生組からは解放される。ですが、今度は長州を敵に回すことになります。結局、誰かを敵に回すことになるんです。あなた方は朝廷を切り崩せずに、こんな子供まで政局の道具にしようとしている。違いますか?」「その心配は無用です」「なぜですか」 千尋が斜に視線を投げかけると、沖田はテーブルに肘をつき、顔の前で手を組んだ。この涼しげな若者にしては珍しく、狩りの最中のような...全文を読む

PageTop▲

死か降伏か 41

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.11 (Sat)

 京の伏見の船着場(ふなつきば)で腰を下ろし、長々とキセルをふかす才谷(さいたに)の前を、鮨詰めの客をのせた高瀬舟(たかせぶね)が横切った。京の四条から伏見を経由し、大阪の堺まで行く高瀬舟は、物資の輸送をおもに行う。だから舟客を乗せていれば、それは島流しの沙汰を受けた重罪人の護送舟と決まっていた。その後手に縄をかけられて無精髭を生やし、やせ細った面相を晒す咎人(とがびと)の中に、極めて目鼻立ちの整っ...全文を読む

PageTop▲

前月     2017年02月       翌月

Menu

プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

坂東蚕の電子書籍


【極道紳士と気まぐれ仔猫】ご購入はこちらから

【恋文代筆承ります】ご購入はこちらから

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新記事