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【  2017年02月  】 

死か降伏か 42

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.12 (Sun)

 「おんし、どうしたがだ! いったい」と、才谷は船場に寄せられた高瀬舟に追いついて、泡を食ったように声を張った。ともあれ、舟縁から船場に降りようとする千尋に身を乗り出して手を掴み、千尋を手前に引き寄せる。そのはずみで千尋は才谷の厚い胸の中に倒れ込んだ。「……さ、才谷さん?」肩口に顔を埋めるように抱きしめられ、千尋は身動ぎながら当惑の声を出す。「なんちゃあ……。おまん……」千尋をこうして抱きしめていても、ま...全文を読む

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死か降伏か 43

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.13 (Mon)

 「会津と薩摩が手を組んだ以上、長州に勝ち目はないと、帝にゃ再三申し上げているようなんだが……」 宿と宿の狭い隙間に大柄の才谷が入り込み、板壁に背中を預けつつ、苦渋の色をにじませた。千尋のその後に続き、船場の喧騒も遠退いた。「このまま帝の勅旨(ちょくし)が得られなければ、長州藩を討つこともままならん。帝は大和国に行幸召され、長州は帝を奪い去り、帝を錦の旗にして一気に倒幕に討って出る。薩摩にとって最悪の...全文を読む

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死か降伏か 44

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.14 (Tue)

 千尋は才谷のとまどいを読んだように破顔した。「大丈夫ですよ。お会いするとなれば、ちゃんと衣を改めますから」と、袴や袖の埃をはたいて落とし、苦笑する。「二条様が江戸にいらした頃に、非公式にですが御目にかかったことがあります。二条様は一人の人間が五ヶ国語を操るなんて信じがたい。この目で確かめたいと仰せになられて、私を御屋敷に呼んで下さったんです。一橋公もご一緒でしたよ。あの方も、珍しいものがお好きです...全文を読む

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死か降伏か 45

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.15 (Wed)

 路地に沿った通りの町屋の雨戸も閉ざされ、人通りも完全に途絶えた夜のしじま。ようやく家に戻った千尋は、ぬるい仕舞い湯で汗を流し、下帯姿に浴衣をだらしなく着崩して、急こう配の階段を上り切る。今日は早朝から才谷に会い、その後も一日中亰の町を駆けまわり、息も絶え絶えの疲労困憊になっていた。けれど、居室の襖を開けた刹那、覚醒したように目を見開いて身構える。「誰……」浴衣の帯に差していた脇差の柄に手を置いて、 ...全文を読む

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死か降伏か 46

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.16 (Thu)

 「いいんですか?」 佑輔は目を見開いて問いかけた。元々千尋は眠る時、野生動物な何かのように近くに人がいることを極端に嫌うところがある。だから、こうして同じ部屋で寝ることを許されるようになっただけで、佑輔には大きな喜びだったのだ。「いいさ、入れよ。蚊帳ん中のほうが涼しいだろう」なんだかんだ言いながら、誰よりも佑輔に甘いのは自分なのだと、千尋は自嘲を浮かべていた。さすがに自分だけが蚊帳にいて、佑輔を畳...全文を読む

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死か降伏か 47

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.17 (Fri)

 日差しの強さは相変わらずでも、渡る風に秋の気配が漂っている。花村が、よしずに這わせた朝顔の種を摘んでいると、佑輔が重い足を引きずるように濡れ縁から庭先に降りてきた。「昨夜は、お休みになられましたか?」「無理ですよ」 佑輔は首の裏に手を当てながら、はにかんだ。昨夜は疲れた様子の千尋を早く眠らせてやりたくて、寝たふりを決め込んだだけだった。千尋はしばらく息を凝らし、天井をじっと見ていたが、やがて寝返り...全文を読む

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死か降伏か 48

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.19 (Sun)

 千尋の居室に番頭の花村が、英仏蘭露、支那語の新聞をひと抱えにして運び込む。文机いっぱいに広げた中から選別した記事を切り張りするのが千尋の朝の習慣だ。勤勉で緻密な性格だと、花村は思っていた。五ヶ国語分の手引きも文机に積んではいるが、千尋がそれを手にすることは滅多にない。 「申し遅れましたが……」と、花村は膝の上で着物の袖を繰りながら、言いにくそうに切り出した。「昨夜は久藤さんが泊まっていらっしゃること...全文を読む

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死か降伏か 49

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.20 (Mon)

 一八六三年九月三十日(旧暦一八六三年八月十八日)。午前一時。朝廷の伝統的権威と幕府の結びつきを強化して、弱体化した幕府の権威を立て直そうと画策する諸藩の藩主らと、気脈を通じる中川宮親王(なかがわのみやしんのう)が御所に参内した。続いて会津藩主の松平容保(まつだいらかたもり)。淀藩主で京都所司代の稲葉正邦(いなばまさくに)が、それぞれ藩兵を率いて御所入りし、九つあるすべての御所の門を閉じさせた。この...全文を読む

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死か降伏か 50

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.21 (Tue)

 八月十八日の政変の同日。正午過ぎに浅葱(あさぎ)のだんだら模様の染め抜きを揃いで羽織り、市中を行軍する壬生組の姿があった。総勢五十余名。火消しにも満たない頭数だ。先陣を切る近藤勇の籠手(こて)や脛(すね)当てのみの小具足(こぐそく)に、烏帽子(えぼし)姿という時代遅れの扮装が、都人の失笑をかっていた。 「いくら何でも遅すぎる」 千尋は傍らに添う佑輔に、いかにも悔しげに呟いた。路地にあふれた野次馬の...全文を読む

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死か降伏か 51

第三章 LOSE-LOSE

2017.02.22 (Wed)

 事実、正午過ぎに御所に到着した壬生組に、あてがう役目は皆無だった。未明の大砲で事態の異常に気がついた長州も、藩隊を組んで堺町御門に集結した。本来、彼らが警備を任されていた御門である。しかし、彼らが何をおいても真っ先に到着すると思われた堺町御門を固め、待ち構えていたのは、国内最大の軍事力を誇る薩摩藩兵だった。京都守護を仰せつかった会津藩ですらない。壬生浪士組局長の近藤は、不測の事態に激昂した。自分ら...全文を読む

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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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