一緒にいようよ 51

第四章


キスの合間に語尾を甘く擦れさせ、剛志は咲のTシャツをまくり上げ、
薄い胸を這い回る。 
口接を深くしながらも、汗で湿った掌で胸の尖りを探りあて、
時折きつく摘まれる。
「んっ……!」
咲は思わず目を開けて、ビクリと肩を波打たせた。
せわしなく身体をたどる手も、これはセックスの序章なんだと
咲に無言で知らしめる。

「ちょ、……ちょっと、剛志」
咲は仰け反り、キスを解いて身動いだ。
途端に座敷の畳に引き倒され、視界がぐるりと反転した。 
「い、……って! なに、馬鹿、お前……」
「駄目だよ。もう咲が嫌だって言ったって、俺の方が止まらない」       
畳に頭を打ちつけて、抗議の声を上げた咲に、
剛志がむっとした顔で言い放つ。 
咲は慌てて違う違うと声を張り、「こんな所じゃ嫌だ」と告げた。

合掌造りの母屋はまず、玄関を開けると土間がある。
その広々とした土間の右手側に、一段高くなった板敷きの座敷がある。
囲炉裏がきられたその座敷で住人は来客を出迎える。
玄関口で気軽に済ませる話でなければ、来客を板敷の座敷に上がらせて、
戸板で仕切られた奥座敷に案内するという内装だ。

迎えの間から戸板を開けて奥に入ると、
板敷きの床のダイニングキッチンになっている。
そのダイニングキッチンに隣接している畳敷きの座敷の居間に
自分達は二人でいる。
玄関に鍵はかけていないから、
剛志のように咲を訪ねてきた人が田舎特有の気安さで、
断りもなく居間まで入って来るかもしれない。

「今はホームステイしてる生徒もいるし、ニックもいる。
アンジーだって剛志を探して、こっちに来るかもしれないだろ?」

だから困ると、咲は必死に訴えた。
すると、剛志は口をへの字に曲げたまま、いきなり咲を抱き上げた。
「わっ、……なっ、危ね……っ!」
咄嗟に首に抱きつく咲に剣呑な目で一瞥をくれ、剛志は廊下に進み出た。 
「じゃあ、咲の部屋ならいいんだろ?」
「えっ?あ……、ええっ?」
と、慌てる咲に口早に告げ、
廊下を踏み鳴らしながら一番奥の座敷まで来た。
子供の頃から行き来してきた互いの家だ。
目隠しされても歩けると言わんばかりの横柄さで咲の部屋まで辿り着き、
半開きだった襖を足で器用に全開した。
 
八畳の部屋の隅に寄せたベッドと箪笥。  
障子の腰高窓の真下にはテレビを置いた低い棚。
その正面に間接照明とソファという、和洋折衷の咲の部屋を無言で見渡し、
一直線にベッドまで行く。
「なっ……!」
そのまま上に落とされるかと、咲は思わず剛志の首にしがみついた。
しかし、予想に反して壊れ物でも扱うように、
そっとベッドに横たえられる。
「剛志……」
「今日はちょっと大目に見てくれ。俺、なんか本当に余裕ない」

襖をきちんと閉じてから、
ベッドに戻って膝から乗り上げ、剛志がくぐもる声でぽつりと言う。
咲が無意識のうちに尻でいざって逃げをうつと、
すかさず咲を膝立ちで跨いで固定した。

「駄目だよ。逃がないって言ったじゃん」
焦りと当惑と少しの怯えが代わる代わる顔に出てしまっていたのだろう。
剛志は欲情をたぎらせた目で咲を射抜いて黙らせる。


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一緒にいようよ 50

第四章


「剛志……」
か細い声で呼びながら、おずおず背中に手を回す。
いつもの剛志はTシャツか綿シャツだが、今日はスーツのジャケットだ。
何だか咲はくすぐったくなり、泣き出したいのに微笑した。
子供の頃から咲、咲と、雛鳥のようにピーピー鳴いて
ついて来ていた弟分が、大人の男になっていた。
ワイシャツを纏った広い胸に抱かれて、咲はそっと目を閉じた。
剛志の腕にも一層力が込められて、背が弓なりに反りかえる。
「剛、……志」
胸の奥から絞り出された咲の声は、恋人を呼ぶ甘い声音に変わっていた。
背中で感じる剛志の腕の逞しさ。
汗の匂いが混じったような男の臭気が強くなり、
身体が熱を帯びてくる。

「俺だってそうだ」
咲のうなじに顔をうずめ、呻くように剛志が言った。
「俺だって咲を置いて行けるわけない。絶対に……」
顔を上げて息をつぐたび、咲を固く抱き直す。
息が上がった剛志の吐息にうなじを撫でられ、頭が痺れる。心が奮える。
心臓が張り裂けそうに恋していた。

この胸の中にもう一度帰れるなんて思わなかった。
気づいた時には永遠に失くしてしまっていたはずの剛志の胸だ。
咲は、その胸の中で身じろいだ。
頬を離して額を押しつけ、声を殺して涙した。
抱き締めていた剛志の腕も少しだけ緩み、
丸めた咲の震える背中を愛おしむように撫でている。

「……咲」
掠れた声で静かに呼ばれ、顔を上げた。
剛志の切れ長の目が細められると、
精悍な顔が男の色香をまとって艶めき、咲の鼓動を逸らせる。
座敷の空気も次第に密度を増すようで、息が苦しくなっていた。

「ずっと咲にキスしたかった。……キスして咲を、……恋人にしたい」    
「うん。……うん」
俺もと剛志に伝えるために、熱い身体をかき抱く。
互いの磁力に引かれるように静かに唇を重ね合わせ、
恋人のキスを交わし合う。
静まり返った座敷の居間に、唇が立てる濡れた音と衣擦きぬずれのが、
やけに鄙猥に響いて消える。
「咲……」


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一緒にいようよ 49

第四章

「大体ちょっと目え離したら、
すぐ別の男連れ込む奴を置いて行けるか? 五年間も」
「……剛志」
「そりゃあ教え子なんだし、アンジーのことは可愛いよ。
だけど、その可愛いは、この可愛いとは全然意味が違うだろ」
苦笑いした剛志の声音に微かに甘い響きが混じる。
剛志の右手が頬に触れ、微動だにしない咲をあやすように上下した。

「まあ、日本校の話が出たのを黙ってたのは謝るよ。
……だけど、あんまりあっさり咲に『行け』って言われてさ。
ちょっと拗ねて、いじめてた」
「いじめてた……って」
打ち明けながらもはにかむ剛志を、咲は惚けたように眺めていた。
わざと黙っていたことを知らされた後も怒りより、
剛志がアンジーの恋人じゃなかった安堵の方が大きくて、
すぐには言葉が出なかった。       

しかも、どうしたら一緒にいられるのかを剛志が考え続けてくれていた。
自分が躊躇し、足踏みしていた間にも、剛志は奔走してくれた。
咲の円らな双眸に大粒の涙が溢れ出し、頬を伝い流れ落ちる。
「ありがとう。……剛志」
やっとのことで声を出すと、身体の奥から震えがこみ上げ、
言葉が涙に溶かされる。
そうして息を凝らして見つめる咲に、剛志は照れたように笑み崩れ、
頬の涙を親指の腹で拭い取る。

「ほんとに嬉しい? 俺が残って」
「嬉しいから、こんな泣いてるんだろう」
間近に顔を寄せてきた剛志があんまり嬉しげで、
癪に触った咲はつい、尖った声で言い返した。

「だけど、咲はイギリス行きたいんじゃねえのかよ」   
「……えっ?」
「だって、午前中にアンジーの親父さんからメール来てさ。
『剛志の友達の咲が、
日本伝統の鍛冶技術をイギリスで教えたいと言っている。
剛志の意見を聞かせてくれ』って言われたから。
俺は、『だったら、俺と一緒に日本校の講師として雇ってくれたら俺も嬉しい』
って、返事したけど」
 
問い詰めながらも悪戯っぽくほくそ笑み、剛志が答えを目顔で促す。
咲は剛志の肩を拳で叩き、ヤケクソのように怒鳴りつけた。
「そんなのお前がイギリス行くって言ったからだろ! 
お前が日本に残るのに、なんで俺だけイギリス行かなきゃならない……っ」
と、語気を荒げた時だった。
上から被さるように無言で剛志にかき寄せられ、
息も言葉も呑み込んだ。


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一緒にいようよ 48

第四章


「本当は最初にイギリス赴任の話は断ってたから、
咲に話すつもりは全然なかった。
だけど、アンジーにあんな風に言われた後で、
俺がこの話を白紙にしたら、きっと自分のせいでこうなったって、
絶対咲が悩むしさ。
だったら俺が赴任するんじゃなくて、今回みたいにイギリスから生徒に
来てもらって、短期留学みたいな形で俺が日本で教えたいって、
アンジーの親父さんに相談したんだ」        
すると、すぐにアンジーの父親に日本校の創設を提案されたと、
剛志は真摯な声音で咲に言う。
つまり、日本校の講師を勤めると同時に、
創設開校のスタッフとしての辞令を受け、飛び回っている最中らしい。

「で、……でも、お前。アンジーと恋人同志になったんだろ? 
アンジーはお前が日本に残る事をちゃんと納得してるのか?」
「はあっ?」
一番の憂慮を最後に剛志にぶつけた途端、剛志が上擦った声を張り上げた。
「なんで俺がアンジーと……っ!」
「なんでって……、お前。だって、アンジーとキスしてたから……」
「キスしてたって、俺がいつ?」
咲は肩を掴まれ、揺さぶられ、逆に剛志に問い質された。
その剛志の動揺と驚愕振りに圧倒されつつ、
咲は離れの縁側で見た光景を訥々と説明した。
すると、知らないと喚いていきり立ち、剛志が忌ま忌ましげに吐き捨てる。  

「俺が昼寝してる時にだろう、そんなのは!
勝手にヤリやがったんだよ。あの野郎……っ」
「それじゃ……」
「付き合ってねえよ! 当たり前だろ!? 
だったら何のためにこんなに苦労して、日本に残ったりするんだよ、俺が!」
剛志は座卓を叩いて咲に訴え、真っ赤になって怒鳴り散らした。
それでも咲は唖然として、剛志見上げることしかできない。

何のために。
その一言が咲の胸を貫いた。


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一緒にいようよ 47

第四章

剛志はリモコンでテレビを消して淡々と答える。
まるで、ある程度予測がついていたかのような口振りだった。

「アンジーの親父さんからイギリスで講師をしてくれないかって言われてたけど。
俺は日本の技術を学ぶなら、
生徒に日本に来てもらう方が実践的だって話してみたんだ。
校長も、ニックからも日本の技術の高さをいろいろ聞いてたらしくてさ。
俺は今回みたいにホームステイの延長みたいな、
短期留学的な感じで考えて欲しいって言ったんだけど。
だったら、いっそ茅葺き民家がたくさん残るこの土地に、
生徒を留学させる学校の設立を検討するって言ってくれて」
「だから、お前はイギリス行かなくてもよくなった?」
「うん、そう」
「……うん、そうって。お前」
 
あまりにあっけなく頷かれ、咲は絶句したまま棒立ちになる。
その上、いつもは汚れたTシャツに履き古したジーンズ姿の剛志が今日は、
ストライプのブルーのシャツにミントグリーンのネクタイ。
肩の広さや体躯の厚み。
顔立ちの精悍さが強調されて、あえなく鼓動を煽られてしまう。 
 
咲は二重の意味で顔も身体も火照ってくるのを感じつつ、
それでも必死に睨みつけ、ぎゅっと拳を握り込んだ。 
「……だったら、イギリス赴任の話が日本校設立に変わったこと、
どうして俺にも黙ってたんだ。
俺がめちゃくちゃ焦ってたのは、お前だってわかってただろ」 
咲は苛立ちながら凄んだが、
そんな咲を愛でるように剛志が双眸を細めて笑う。 

「焦ってたんだ」
「……っ、てめえっ!」
胡坐をかいて座ったまま、からかい口調でうそぶかれ、
思わず剛志の胸倉を鷲掴みにして引っ張った。
剛志は抗いもせずに腰を上げたが、
その直後、咲は立ち上がった剛志に左右の手首を無言で掴まれ、息を呑む。
反射的に見上げると、
おどけた表情を消し去って、凛とした顔の剛志がそこにいた。


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小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
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