一緒にいようよ 3

第一章

まずい。サボっていると思われたのか。
咲はあからさまに不機嫌顔の剛志から慌てて離れて背を向ける。
「わかってるって。ちょっと休憩してただけだろ?」
と、崖の斜面の赤土から頭を出した山ウドに狙いを定めて登りかけた。
だが、大股で進み出てきた剛志に脇に押しやられ、
転倒しそうになりかける。

「何だよ、急に」
「いいよ、危ない。俺が採る」
 
咲は語気を強めたが、手近な枝に手を伸ばし、足場を見つけて軽々崖を登っていった。
そうして手折った山ウドを眼下の咲へ放り投げ、
一気に崖を駆け下りた。
しかし、 
「good job」
と、労うニックを威嚇するように黙って横目にしただけで、
顎で咲をしゃくって促す。  
「そろそろ帰ろうって言ってるから、咲は皆を呼んできて。
ニックはあっちに皆いるから、あっちで一緒に待っててくれ」
「OK」
 
慌ただしく指示だけ残して踵を返した剛志を見送り、咲はニックと二手に別れる。   
ニックに対する剛志の態度も気になはなったが、
一行が今回ホームステイするきっかけを作ったのもニックだった。
あのそっけなさも剛志とニックの気安さなのかもしれないと、
咲は勝手に解釈する。
 
アンジーの父親が設立し、ニックが教員を務めているのが茅葺き職人の養成学校。
同じく茅葺き職人の剛志が作ったホームページを、
ニックが見つけてコンタクトを取り、交流が始まったのだと聞いている。
英国に茅葺き職人がいること自体驚いたのだが、
英国の湖水地方などでは、今でも漆喰壁の茅葺き住宅が一般的だという。
需要は日本よりもあるそうだ。
 
そんなニックが日本の茅葺き技術の研修として養成学校の生徒を伴い、
茅葺き民家の剛志の家にやって来たのが三日前。
滞在予定は三週間だ。

滞在中は茅葺き古民家の密集地であるこの地区一帯の観光も、
スケジュールに組みこまれている。
その間、咲も彼らの炊事洗濯、観光などを援助する予定になっている。 
しかし、一人暮らしの剛志に頼まれ、気軽に承諾したものの、
心のどこかで微かに後悔しかけていた。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

エブリスタでも『天下分け目のBL合戦』企画にプラチナ文庫様『ピュアラブ』部門で連載中。
エブリスタ【君の匂いがする時は】のページは→こちらから。
スポンサーサイト

▲PageTop

一緒にいようよ 2

第一章

「タラノメって何? 咲。見せて見せて」 
と、剛志の腕に腕を絡め、アンジーが満面の笑顔で寄って来る。 
「ああ。ここにあるから、剛志に採ってもらったら?」
すっかり我が物顔のアンジーに、咲は眉間を曇らせて言う。
思わず口調も刺々しくなり、慌てて周囲を見回した。

だが当のアンジーも、剛志ですら気にする様子は見られない。 
こちらの不機嫌丸出しの声にすら気づいていない二人に、
追いうちをかけられる。 

やはりアンジーぐらい綺麗なら、その気になってしまうのか。
懐かれれば悪い気はしないのか。
咲は自分の小造りな顔に薄茶色の腰のない髪。奥二重の地味な双眸。
ほっそりとした女性的な鼻筋や小さな唇。
高校二年で止まったままの身長や、
二十四歳の年相応の男の色気も貫禄も何もない自分自身の童顔を
無意識のうちに脳裏に描き、肩を落として嘆息する。

別にアンジーとルックスで張り合うつもりはないけれど。
張り合う意味もないけれど、
自分一人がヤキモキしながら取り残されていくようで気が滅入る。
疎外感を深めた咲は、
二人を残していじけるように春の日が射す伐採跡を出て行った。

林道脇の草叢に蕨やこごみを見つけては、
アンジー達を引率してきた教員のニックや他の学生達にも摘ませてやる。
「イギリスは山菜採りはしないんだよね?」
「しませんねえ。イギリスではハーブも自宅の庭で育てますから」
教員のニックも大の日本好きで、今回は通訳兼引率役を担っている。

グレーのスラックスに白いシャツと、胸ポケットに端を入れたブルーのネクタイ。
このまま教壇に立っていても遜色のない出で立ちで、
ワラビやこごみを摘んでいた。 
几帳面な性格はオールバックに撫でつけた髪や、怜悧な眼差し。
華奢な眼鏡のブリッジを人差し指で押し戻す癖にも垣間見られる。 

「そういえば、日本は山菜を自分で栽培するってないかもなあ。
日本人にとって山菜を採って食べるっていうのは、野生の芽吹きのパワーを貰う感覚だから」   
「なるほど。そうなると一種の儀式ですね」
「そうそう。剛志なんか、絶対俺に食えって言うもん。
春に山菜食っとけば、一年病気しないって」
 
咲は幼馴染みの年寄臭さを笑い話にしながらも、本音を言えば、
その気遣いが嬉しくもある。
面映ゆくなって目を細め、
ニックと見つめ合いながら首をすくめた時だった。
「咲」          
という咎めるような声がして、飛び上がるように振り向くと、当の本人が立っている。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

エブリスタでも『天下分け目のBL合戦』企画にプラチナ文庫様『ピュアラブ』部門でも連載中。
エブリスタ【君の匂いがする時は】のページは→こちらから。

▲PageTop

一緒にいようよ 1

第一章

幼馴染みの剛志がゲイの男性を、
こんなに自然に受け入れるなんて思ってもみないことだった。
咲は雑木林に分け入って、下草をナタで払う剛志の背中を追いながら、
釈然としないものを感じていた。 
 
剛志の側には、三日前から彼の家にホームステイに訪れているイギリス人達。 
春の山麓に鴬の声がこだまを返し、周囲に顔を巡らせてみれば、
薄日の射し込む伐採跡に、ぽつんと一本タラの木がある。

「やった。タラの芽みっけ」
咲は一瞬気欝を忘れ、嬉々として剛志とイギリス人等を呼び寄せた。
「アンジー、ニック、タラの芽があるよ。採ってみる?」
山菜採りは初体験だという彼らには、山菜の王たるタラの芽狩りをさせてやりたい。
咲が枝を掴んで手を振ると、三人が一斉に振り向いた。
「タラノメ?」 
と、拙い口調で呟いたのはアンジーだ。
木漏れ日を浴びて透けるように煌めくプラチナブロンドの美少年。
グレーがかった青い瞳に、くるんと上向いた長い睫毛。
ミルクのように白い頬を薔薇色に紅潮させたアンジーが、訝しそうに眉を寄せる。
 
ネイティブ張りに日本語を話し、
日本贔屓を自負する彼も日本固有の山菜は未知の分野なのだろう。
軍手をはめた両手で顔にかかるクモの巣を避け、こちらに足を向けた時、
よろけた彼に剛志が瞬時に手を伸ばす。
「落葉が湿って滑りやすいから気をつけて」
「ありがとう、剛志」
片手で軽々抱き止めたままたしなめる。
そんな剛志をアンジーが見上げて、うっとり答えている。

感情表現がストレートで、ゲイだということも隠さない彼は、
好きだ好きだと全身で剛志に訴えかけていた。   
 
今回のホームステイでアンジーは初めて剛志に会ったのだが、
剛志は日本人にしては長身で、肩幅もある逞しい体躯。
不揃いな黒髪に一文字の眉。眦の吊ったエキゾチックな双眸。高い鼻梁。
いつも不貞腐れているように見える厚めの唇。
それらのすべてがアンジー好みだったらしい。

また、剛志は二十二歳でアンジーは二十歳。同年代の親しみやすさもあるのだろう。
だとしても、一目惚れを豪語されても嫌な顔ひとつ見せない剛志の態度は、
彼の好意を歓迎しているかのようだ。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

エブリスタでも『天下分け目のBL合戦』企画にプラチナ文庫様『ピュアラブ』部門でも連載中。
エブリスタ【君の匂いがする時は】のページは→こちらから。

▲PageTop

【一緒にいようよ】あらすじ

一緒にいようよ

山深い過疎村の鍛冶かじ職人として働くさくは、
幼馴染みで茅葺かやぶき職人の剛志ごうしに頼まれ、彼の家にホームステイにやって来た
十数名のイギリス人の世話を手伝うことになる。
イギリスの茅葺き職人養成学校の生徒達であり、
その一人でもあるアンジーが剛志に一目惚れしたと公言し、
剛志にアプローチし始めて……。

誰よりも親しんできた年下の幼馴染みが別人のようになっていく。
近くて遠い『幼馴染み』を描きます。

▲PageTop

【一緒にいようよ】連載スタートのお知らせ

一緒にいようよ

【一緒にいようよ】は、このサイトを始める前、
諸々の事情で閉鎖せざるを得なくなった旧サイトに掲載していた短編です。
ですので、もう読んで下さった方もいらっしゃるかもしれません。

旧サイトに掲載した時、ブログ村でのインポイントがあまり奮わず、
不評だったのかなと思いまして、
新しくサイトを開設するにあたり、掲載は見送った作品でした。

ですが、いつも拙作を読んで下さっている方から思いがけなく、
「また、【一緒にいようよ】が読みたい」
と、おっしゃって頂き、
驚いたと同時に涙が出るほど嬉しくて。

また、読みたいとおっしゃって下さる方がいるのなら、
こちらのサイトにも掲載しよう。
再掲載として連載させて頂こうと思いました。
以前のサイトで読んだことがあるという方にも、
また、初めて読むという方にも、楽しんで頂ける作品であることを願っています。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

エブリスタでも『天下分け目のBL合戦』企画にプラチナ文庫様『ピュアラブ』部門で連載中。
舞台は京都。お香屋さんの一人息子(大学生)が主人公。
特殊な五感の少年と、チャラ男刑事の間で主人公が揺れまどう話です。
一応ピュアラブで、なんかほのぼの。
だけど、次々事件が起きるサスペンスタッチ。いつものようにいろんな意味でごった煮のBLです。
エブリスタ【君の匂いがする時は】のページは→こちらから。

▲PageTop

Menu

プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

坂東蚕の電子書籍


【極道紳士と気まぐれ仔猫】ご購入はこちらから

【恋文代筆承ります】ご購入はこちらから

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新記事