向かい風を行く 58

 24, 2017 07:11
「じゃあさ。どんなのがタイプなんだよ、 お前って。可愛い系? クール系?」
「……ヨシキさん」
「年上は駄目とか。……年下の方が、やっぱいい?」
薄暗く、誰もいない山の中腹の展望台。
背後で甲斐も立ち上がる気配がした。
美貴はようやく観念し、大きな溜息をひとつ吐いた。手の内のカードを
全部見せることにした。

今更何を言っても無駄だということは、わかっている。
このまま何も言わずに別れたら、来年もまた今年のように一か月間、
甲斐と一緒に手筒花火の準備から奉納まで楽しめるだろう。
気兼ねなく。
帰り道では甲斐が通うラーメン屋に寄り、飯を食ったりできるはず。
何も言葉にしなければ未来は続くかもしれない。
一年間待ってさえいれば、また会える。

美貴の中で未来に希望を託すのか、
それともここで思いの丈をぶちまけて、粉々に砕けて終わるかで、
ほんの一瞬葛藤し、二人の自分が争った。
挙句に未練の方が勝ちを占めた。
誰にも獲られたくないからだ。

今年甲斐に会えるのは今夜で最後だ。
祭りが終わってしまったら、もう甲斐は連絡なんてしてこない。
だから尻に火がついたように焦っていた。
榊原だって甲斐を虎視眈々と狙っている。
それなのに一年間も悠長に待ってなんていられない。

どうしたら甲斐を引き止めることができるのか。
先輩ではなく恋人として、だ。でなければ何の意味もない。
今夜何ひとつ本当のことを言わないまま、じゃあ、また来年と笑い合い、
手を振り合って別れるなんて、もうできない。
だって、こんなにも好きなのに。
明日にでもまた会いたいのに。

美貴は黙り込んだままの甲斐を恐る恐る振り向いた。
甲斐も問い質すように美貴を見つめ返していた。
きつく眉根を寄せた甲斐は、真意を図りかねているようで、
それでいて、ひどく怒っているような顔にも見えた。美貴には。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト

向かい風を行く 57

 23, 2017 06:47
「付き合ってるとか、そういうのはないですけど……」
たどたどしく言いながら、甲斐はだから、何? どうしたの?
そんな目で美貴を見た。
さっきまで楽しそうにしてたのに。それなのに、どうしたの?
唐突にイライラし出した美貴に慄き、甲斐は顔色を曇らせる。

美貴は『いない』と言われた瞬間に、思わず顔を上げていた。
その瞬間だけ目が合った。
外灯も消された薄闇の展望台でもわかるほど、
甲斐は無邪気に美貴を見た。目を逸らしたりせず臆したりせず、
ただ気遣ってくれている。

その時、美貴の中では浮き上がるような安心と、地面にめり込むような落胆が、
それぞれ同時に湧き起こり、ない交ぜになって渦巻いた。
結局、半笑いになりながら、
美貴は膝を抱えた自分の腕に顎を乗せ、視線を虚ろに彷徨わせる。

本当に眼中にないんだな。
答えをもらう前より更に打ちひしがれ、何も言葉が出なかった。
こんなに牽制球を投げたのに、甲斐は微動だにしていない。
受け取ってさえいなかった。
そんな気がして、何かがすっと心から落下したのを感じていた。
美貴は足が痺れて立ち上がり、伸びをしながらさりげなく背を向けた。
甲斐を見なくて済むように。
そうしなければ本当に泣いてしまいそうだった。

眼下に広がる町の灯りも、さっき見た時より数が減り、闇の濃さを増していた。
今日という日の祭の熱は漠とした寂寥に変わりつつある。
美貴の中でも熱狂は潮のように引いていた。

甲斐と二人で手筒花火の砂鉄の火の粉を浴びながら、
熱さに恐怖にも耐えた数分間。
あの夢のような数分が天高く打ち上げられた花火のようにキラキラと、
放物線を描きつつ夜空の闇に消えて去る。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から

向かい風を行く 56

 22, 2017 07:35
身動いだ甲斐のわらじ履きの足先に、橙色の火の玉が落ちて散る。
甲斐は珍しく動揺を顕わにした。
「お前ならやっぱ、モテるだろ」
美貴は膝を抱える自分の腕に顔半分うずめたまま、ヤケクソのように言い放つ。
病院を退院した日に車の後部座席を開けられて傷ついた自分を知ってから、
甲斐の隣に「いるべき」相手がいることを、
心のどこかで疑った。

「……いえ、そんな」
かすれた声で謙遜し、ゆるく左右に首を振る。
だが、訝しそうに眉をひそめ、少しだけ腰を浮かせて退いた。
真横ではなく、美貴の顔がちゃんと見える位置に動きたかったらしかった。
斜め後ろに移動してしゃがみ込み、
急にどうしたのかと聞きたげに、視線で美貴に詰め寄った。
甲斐が離れた分だけ密着していた腕が離れ、体温と二の腕の質感が遠のいた。
僅かに生まれた腕と腕の隙間から夜風が寒々しく吹き込んだ。

美貴が下げた線香花火の慎ましやかな灯火が揺らぎ出し、
膨らみかけた橙の粒ごと火花も落ちて散る。

「ほら、もう。お前が動くから。最後の一本だったのに」

美貴は紙のこよりをコンクリートの床に捨て、
花火の残滓をわらじの先で揉み消した。
まるで吸いかけの煙草を落として踏み消すように執拗に。
それでも甲斐は黙っている。
脈絡もなく聞くだけ聞いて、むくれる美貴に困惑の目を向けている。
甲斐の戸惑いが、わかるからこそ苛立った。

聴けるものなら聴きたいと思っている。
特定の相手がいるのか、と。
そして、それは聴きたい気持ちと同じぐらい聴きたくもないことだった。
まだ甲斐を好きなままでいたかった。
このまま二人でふわふわと、夢とうつつの境目をたゆたっていたいのに、
ひとりよがりの片想いだと知るのが恐い。
諦めなければならない相手なのだとわかっても、
諦められる気がしない。

だから確かめたくない、そんなこと。
けれど、確かめなくてはならないこと。
それもよくわかっていた。

「でも、いるんだろ? 本当は」
いないと甲斐に言って欲しい。
否定の言葉が欲しかった。だからこそ、こんな問いかけになっていた。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から

パブーで電子書籍作りました

 21, 2017 22:16
電子書籍作成・販売プラットホーム【パブー】で、
電子書籍を作りました。
今まで同人誌を作ったことがなかったので、一度やってみたかったんです。

作品のタイトルは【 雌雄眼しゆうがん 】です。
販売価格は¥300
ページ数は400字詰め原稿用紙214枚(85664字)です。

今後も、【カクヨム】に掲載している【 東京ラプソディ 】の完全版やSSや、【 恋文代筆(電子書籍) 】の続編。
できれば未発表の新作BL小説など、
ちょこちょこと、細々と作っていきたいと思っています。

【カクヨム】にはR指定がありますので、Hシーンを、かなり規制して書きました。
それをバーンと、
「本当は、ここまで書きたかったんじゃー!」
という、心の叫びをぶつけた【完全版】の販売をと、考えています。
その際には、また、こちらで告知させて頂きます。



タイトル【 雌雄眼しゆうがん 】

明治維新で没落した上流藩士×成金俺様悪徳金貸しの下層藩士
互いに惹かれ合いながら、決して心を許し合えない二人の明治浪漫レトロラブです。

あらすじ
明治政府御用商人船戸屋ふなどや店子たなこだった紀瀬那緒きせなおは、
主人の船戸の商売仇の辻島つじしまに、店子修行名目で出仕する。
しかし、那緒は身体で辻島を籠絡し、
握った弱みをあるじの船戸に漏えいする間諜の密命を負っていた。

ご購入方法

↑↑↑
こちらの画像をクリックすると、閲覧・試し読み・ご購入して頂けます。
お買い求め頂けましたら、嬉しいです。

どうぞ、よろしくお願いします!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から

向かい風を行く 55

 21, 2017 06:23
右腕の藍の袢纏はんてんの布越しに伝わる甲斐の身体の熱。
意識し出すと、もう駄目だ。
どうしようもないぐらい鼓動が早鐘を打ち始め、顔を見ることもできなくなる。
美貴は火花を咲かせる線香花火の先だけ、息を殺して見つめていた。
「……あっ、落ちた」
やがて視線の先で火の玉が落ちて、美貴は渋々腰を上げた。

それでも二本目に火を点けて、再びしゃがんだ時もまた、それとなく甲斐に密着した。
「お前、巧いな。さっきから全然落ちねえじゃん」
「動かさなければ落ちないですよ」

こんなにぴったりくっついて、何か変だと思われていたらどうしよう。
気持ちが悪いと思っても、言えずにいるだけかもしれない。
内心ビクビクしていたが、腕でも肩でも甲斐に触れていたかった。
万が一、
「暑いです」
などと、甲斐に口実を作られて、
それとなく距離を置かれても、線香花火の火花は風に弱いから。
風よけのために並んだだけだ。
くっついたのは、その為だ。
美貴は甲斐にも自分にも心の中で言い訳した。

甲斐も一瞬ビクリとしただけで、
よけたりせずに花火をじっと見つめている。
「……あのさ、お前」
美貴も四方に広がる可憐な火花を見たまま言った。
「付き合ってる奴とかいるの? ……好きな子とか」
「えっ……?」


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から

WHAT'S NEW?